M.T：はい｡開発は2003年に始まりました｡僕は2019年から拡販担当として減速機プロジェクトに参画した新参者です｡百戦錬磨のO.Nさん､K.Kさんにぜんぜんついていけず､会議の議事録を起こすだけでも結構勉強しないといけませんでした｡

O.N：彼はすごく勉強熱心｡聞くべき内容をしっかり理解したうえで､お客様と話ができているよ｡受け答えもすごく技術っぽいから､説得力があるんじゃないかな｡

K.K：お客様が言ったことなのか､それとも打合せを通じ彼が感じたことなのかきっちり分けて僕らに説明してくれるから､しっかり議論もできる｡

M.T：そんなことありません｡まだまだ知らないことがたくさんありますよ｡例えばO.Nさんが担当した超小型モジュールの内歯歯車減速機の開発の事とか・・・｡

O.N：オフィス複合機にはトナーを紙に転写するための感光ドラムがありますが､それを動かす減速機の件ですね｡金属製減速機を樹脂化してコスト低減するテーマでした｡まず､何を踏まえてやるべきかを15枚の企画書でお客様に説明しました｡それにお客様が共感されて一緒にやろう､という事になりました｡そこまではよかったのですが､開発スタート後の2年半はトラブル続きでしたね・・・｡お客様が求めていたのは外径30㎜に収まる差動遊星歯車方式による超小型減速ユニット｡精度も既存の金属品と同等レベルが必要｡

M.T：そう考えるとかなり小さいですね…｡

O.N：4回目の試作でもうまくいかなかったとき､2個の差動遊星歯車のそれぞれを単体で測定したところ､一つだけ優れた単体があるのに気づきました｡すべて組み合わせた評価ばかりしていたので気付かなかったのです｡そこで､その優れた単体の作り方で他の部品をつくり測定したデータを見たとき､『できる！』と確信しました｡あとで聞いたのですが､お客様側では､次がラストチャンスだとなってたみたいでした｡

O.N：そこから設計はスムーズにいきました｡そして量産となったのですが・・・

M.T：商品開発の大きな壁ですね｡

O.N：量産公差がきわめて狭い｡金型づくりはもちろん､そのメンテナンスがとても大変だった｡射出成形で発生するガス成分が金型にたまると精度にばらつきが出るんですよ｡そこで､これまでは製品を測定し公差外れに近づいてからメンテしていたのを､今回はより細かいデータ取りをして､精度悪化のサイン・傾向をつかんで先んじてメンテする､という予測管理を行いました｡

K.K：現場の人もすごく協力的で､開発と現場の良いタッグで､工場の品質管理が上がったね｡

O.N：初期流動管理についてお客様に相談したところ､『私に任せたい』とのことでした｡ならば徹底的にやろうということで､通常の10倍以上の量産データから仕組みをつくり､お客さまにそれに合わせた検査ソフトをつくって頂きました｡おかげさまで今のところ市場からのクレームは全くないですね｡

O.N：ずっと我慢して一緒にすすめてくれたお客様に感謝です｡打合せではほとんどお会いしていなかった年配のエンジニアのお客様から『この量産はひとつの歴史になる！ありがとう！』と泣かれてビックリしたのですが､この開発を裏で支えてくれていたのでしょう｡うれしいですね｡

M.T：ベテランのK.Kさんは､エスベア歯車の開発実績を僕に教えてくださいましたが､K.Kさんといえば超薄型DD(ディファレンシャル ドライブ)減速方式による電気錠の開発ですよね？

K.K：それまでの一般住宅向けのドアで使われる鍵の減速機は､すごくデカくてかっこ悪い｡僕たちの提案は､減速機をめちゃくちゃ薄く小さくしてやろう､それならドアのデザインがより魅力的になるのでは､というものでした｡

K.K：お客様が想定していた厚み寸法よりも7mm薄くしました｡

O.N：お客様､あまりにも薄くなるのですごい興奮してましたよ｡しかもK.Kさんは設計がめちゃ早い｡ババババってやって1週間くらいでしたね｡

M.T：マジですか? めちゃめちゃ早い｡手が早い(？)だけでなく､K.Kさんはその試作・評価も担当していますよね｡

K.K：開発スタートしてから､お客様のリクエストがどんどん厳しくなる｡減速機を動かすモータのパワーが低くなった分､減速機側の効率を上げてくれとか｡生産コストを下げるために本当はこっちの部品が使いたいのに代替部品を探すとか､たくさんありました｡DD減速機方式を初めて量産投入したので､その理論を具現化するのにも苦労しました｡1年半の間はずっと地獄みたいやったね｡思いついたことをとにかくやって､クリアする方法を見つけていきました｡そのとき試した経験はその後の『アイディアの引き出し』になりましたが｡

K.K：だれもが使うドアの電気錠でのトラブルを想定した品質管理の知見が乏しく､この開発で多くの事を学びました｡そして量産品の初出荷をむかえ､『これで大丈夫！』と梱包したものの､心配になってもう一度ばらして確認してしまいました｡あの時は本当に恐る恐るでした｡

K.K：とにかく減速機の組み間違いが発生しないような設計を重視し､出荷まで気を抜かない｡もちろん市場からのクレームはありません｡

M.T：スターライトの常設展示場『STARLITE Exhibition Hall』に展示してある2つの樹脂減速機の熱いストーリー､グッときました｡次は僕と新しいストーリーをつくりましょう｡よろしくお願いいたします！

M.T：新たに社内でモーションエンジニアリングプロジェクトを立ち上げ､樹脂減速機がキーアイテムとなっています｡現在､労働人口の減少が深刻な問題になっていますが､生産現場の“自動化”はより一層重要になると考えています｡生産現場だけでなく身近な用途でも､人に危害を与えない安全性と量産性の両立が求められてくると思います｡弊社の樹脂減速機が貢献できると確信しています｡K.Kさん､O.Nさん､これからもよろしくお願いします！